子どものネット利用支援――「意図と方法のズレ」を埋めるとは


本記事は、こども家庭庁ウェブサイトに昨日掲載された講演動画「【高橋大洋氏】講演動画(なぜ子どものネット利用がうまくいかないのか?支援者が知るべき三つのズレ)」の補足としてまとめたものです。

あの動画は10分という持ち時間の中で、子どものネット利用をめぐる「三つのズレ」をネットセーフティ支援者向けに論点整理することを主眼にしたものでした。その反面、具体的にどんな働きかけが望ましいのか、十分に踏み込めなかった点が心残りでもありました。

そこで今回、現場の企画担当者や講師の皆さんに向けて、動画中の「意図と方法のズレ」についてもう少しだけ具体的なご提案をしてみたいと思います。


技術的手段だけでは届かない現実

子どものネット利用支援では、保護者の「守りたい」という気持ちと、子どもの期待、そして実際に推奨される行動との間に大きなギャップが生じがちです。

講演の中で私はこれを「意図と方法のズレ」と呼びましたが、実際に、それぞれの家庭でどのようにこのズレを埋めればよいのか、また保護者向けにどのように伝えるのが効果的なのかについては、私自身も模索を続けているところです。

もちろん、ペアレンタルコントロールや時間制限といった技術的な手段、そしてその前段として必要なルールづくりは、保護者向けアクション提案の中で大切な選択肢の一つです。ただ、「それはもう試したがうまくいかない」「そもそもネット利用について子どもと話をすること自体が難しい」という声を多く耳にします。

そもそも技術的な手段だけでは子どもの行動を変えることは難しく、行動の背景に目を向ける視点が不可欠ですし、睡眠とか遊びのような「ネット利用以外への介入(支援)」こそ保護者が本当に力を発揮できるところだと考えます。そうした趣旨の話を保護者にしてみると、「ネットのことは自信ないけど、それならできる」「目からウロコだった」などと、反応も良いのです。


会話は「次につなげるヒントを拾う」だけで十分

でも、ネット利用そのものについて、保護者が全く関わらないというのも難しい。少なくともどんなことに夢中なのか把握しておきたいところです。ところがここはそれほど容易ではありません。

たとえば、子どもがどんなゲームやアプリを使っているのかを尋ねる場面。「いま、どんなゲーム(アプリ)が面白いの?」と聞いても、おそらく親子の会話は弾みません。特に小学校高学年以降になると難しい。「別に」とか「忘れた」とか言われて終わりになりかねません。

でも、ゲーム名・アプリ名が聞けたら御の字。その日はそれで十分です。正式名称ではなく、略語で言われたりすることも多いと思いますが、あとでネット検索すれば見つかるはずです。

逆に、決してやってはいけないのがその場で「どんな内容?」「どんなところが面白いの?」と、問い詰める(または解説させる)こと。なんで好きなのか、どこが面白いのか、そこまで深く言語化できていない方がふつうですから(大人でもそうですよね)、子どもにとってはそういう会話は単に「面倒くさい」んです。

いったんその場から離れ、保護者自身がそのゲームやアプリについて自力で調べてみましょう。Google検索だけでなく、YouTube上での検索も役立ちます。初心者向け(◎◎の始め方)とか解説動画がたくさんみつかると思います。それを通じてどんな世界観や遊び方かを知る。

その結果をもとに翌日以降、「◎◎って書いてあったけどホント?」と疑問点を尋ねてみる。もう少し詳しく、ゲームやアプリ内のキーワードが聞けたら、それもまた調べてみる。時間はかかりますが、そんな順序で「子どもの好きなこと、楽しんでいることの理解の解像度を徐々に上げていく」関わり方こそが現実的だと考えています。


「努力して受け止めようとする姿」を子どもに見せる

子どもが夢中になっているゲームやアプリのことを、保護者が適切に理解するのは、難しいのが当たり前です。自分でもゲームをプレイしたり、アプリを利用してみたとしても、いつまでも、「イマイチ分かってないよね」段階でとどまるほうが普通でしょう。

でも、中途半端な知識で「わかったふり」をすることは、逆効果になります。大切なのは、大人自身が努力して受け止めようとしている姿、わからないことを素直に認めて、学び続けようとしている姿です。

そうした存在の相手にであれば、子どもがなんらかの疑問や不安を抱いたとき、「この人なら一緒に問題解決に付き合ってくれるかもしれない」という気持ちにつながります。そして、大人にしか見えにくい視点――たとえば運営側の収益構造や、ついつい夢中になる仕組み――を必要なタイミングで子どもに助言できる余地を生むのです。


支援者の新しい取り組み――人気ゲームを知る講座の企画

こうした関わりを支援者側が後押しする新たな取り組みとして、人気ゲームやアプリの具体的な内容、魅力を学べるミニ講座や情報提供会、体験会などを保護者向けに企画してみるのは有効かもしれません。

また、ゲームの楽しみ方、アプリの使い方にも、実にいろいろなスタイルがあります。大人同士でも、他の人の使い方を知る機会は少ないはずです。何らかの機会さえあれば、お互いに学べることは案外多いのではないでしょうか。

また、すべての保護者がそうした学習の機会に参加する必要もありません。「うまく行った方法」「本当に役立つ知識」は、保護者同士であっという間に共有されるものだからです。

このように、単に「危険」「弊害」を説くのではなく、保護者が子どもと同じ目線で、楽しみ方、面白さにも触れられるよう手助けする場を作ることで、家庭内での対話がぐっと広がるはずです。そして望ましい利用のあり方を親子で一緒に模索できるようになることが理想です。


信頼を育むのは「完璧な理解」ではなく姿勢

繰り返しになりますが、ネット利用の支援は、ルールや設定の話だけで成り立つものではありません。子どもがなぜその行動を取っているのか、背景を一緒に探り、成長に応じた見通しを共有できることが目標です。フィルタリングも時間制限も、その後に、子どもとも合意の上で使われるものとして設計、提供されているものです。

しかし、こうした保護者の取り組みには、確立された成功パターンがまだ存在しません。そもそも子どもも保護者もいろいろな特性と事情を抱えた唯一無二の存在だからです。したがって、保護者を支援しているわれわれにも、「こうすれば絶対」という助言のカードは持ちようがないわけです。全部お見通しというわけではない。でもどの家庭にも共通する大切なポイントについては言える。そこから先は一緒に試行錯誤していきましょうというのが、いまもっとも期待されている姿勢なのではないでしょうか。まずは、直接話が聞けるお子さんに、好きなものを尋ねてみるところから始めてみるのはいかがでしょうか。

私自身も引き続き、皆さんと一緒にその道を探っていきたいと思っています。

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