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AIに置き換えられないスタッフとは——中小企業のAI導入が「均質化」を目指してはいけない理由

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 「AIを導入する時は、プロンプトや設定の標準化・最適化を意識して進めるべきだ」 そう考えている経営者や管理職の方は、少なくないと思います。 でも少し立ち止まって考えてみてください。そもそも今、あなたの職場に「標準的なスタッフ」はいますか? 中小企業に「標準的なスタッフ」はいない 大企業のように、同じような知識と経験を備え、同じ研修を受けた大勢のスタッフが、同じマニュアルで同じ業務をこなす——そういう職場なら、「みんなが同じように使えるようになる」は意味のある目標かもしれません。 でも中小企業の現場は、たいていそうではありません。 Aさんは取引先との関係構築が抜群にうまい。Bさんは細かい数字の管理と拾い上げが得意。Cさんは業界の慣習を熟知していて、若いスタッフでは対応できない局面を何度もさばいてきた。一人ひとりの知識や経験、得意分野の凸凹が、とても大きい。 もちろんこれは組織としての弱みではあります。 誰かが抜けたときのリスクは高いし、業務の引き継ぎも一筋縄ではいかない。 でも同時に、これは強みでもあります。 一人ひとりが代替可能な「標準的なスタッフ」で構成された組織は、規模が大きい方が圧倒的に有利です。人数が多いほど、処理できる量が増え、コストも下がる。中小企業がその土俵で大企業と戦っても、勝ち目は薄い。 中小企業が戦えるのは、どこかに「突飛さ」とか「規格外」の部分があるからです。 Aさんだから取れた仕事、Bさんがいるから防げたミス、Cさんの経験に裏付けられた直感から生まれたアイデア——そういった「その人にしかできないこと」の積み重ね・組み合わせこそが、組織の個性になっているはず。 --- AI導入の目的は「標準化」ではなく「エンパワメント」 ではそんな中小企業にとって、AI導入の目的は何であるべきか。 「みんながある程度同じように使えるようになること」ではないはずです。 一人ひとりのスタッフが、今よりもっと自分らしく力を発揮できるようにすること。 それがAI導入の本来の目的ではないでしょうか。 AIはあくまでも道具であり、使う人の部下です。Aさんの強みをさらに伸ばすために使うAIと、Bさんの弱点を補うために使うAIは、同じツールでも使い方がまったく違って当然です。 「全員に同じ研修を受けさせて、同じプロンプトを配って、同じように使えるようにする」(極端な...

「すぐ使えるプロンプト」を持ってきても定着しない理由——中小企業のAI活用に外部からの答えはない

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 SNSの広告や、セミナーの告知でよく見かけます。 「すぐ使える厳選プロンプトを特別公開!」「業務効率が劇的に上がるプロンプト集」——。 気持ちはわかります。何から始めればいいかわからない、うまく使いこなせていない、そんな状況で「すぐ使える」という言葉は魅力的に映ります。 でも少し立ち止まって考えてみてください。 そのプロンプト、本当に「自分たちの仕事」に使えるでしょうか? なぜ定着しないのか①:よそと同じ業務は一つもない 外から持ってきたプロンプトが定着しない理由の一つは、シンプルです。 それは、 あなたの組織の業務のために書かれていないから。 「議事録を要約して」「メールの返信文を作って」——汎用的な使い方なら、どこのプロンプトでもそれなりに機能します。でも実際の業務は、もっと文脈が濃い。 そしてこちらが与えた文脈次第で、全く異なる答えが生成されるのがいまのAIの仕組みです。 取引先との関係性、組織として求められる言葉の遣い方、「原則はそうだけど、こういう場面ではこう判断する」という暗黙のルール。こういった背景を反映させずに書かれたプロンプトをそのまま使っても、当然のようにズレが生じます。 「使ってみたけどなんか違う」「結局自分で直す方が早い」——それは、AIのせいではなく、プロンプトの作られ方のせいかもしれません。 なぜ定着しないのか②:業務フローに手を入れていない もう一層、深いところにも問題があります。 プロンプトは、「何をAIに頼むか」が明確になっていないと書けません。そしてその明確さは、業務の流れを自分たちがきちんと把握していることを前提にしています。 ところが多くの現場では、業務フロー自体が「今までそうしてきた」という慣習で動いています。誰かが長年やってきたやり方、担当者が変わると途端に回らなくなる工程、明文化されたことのないチェックの基準——。 こういった状況でAIを導入しようとすると、プロンプトを書く以前の問題にぶつかります。 「AIに何をどう頼めばいいか」がわからない 、という問題です。 業務フローを所与の絶対条件として動かさないまま、プロンプトだけを外から調達しようとしても、うまくいかないのは当然です。AIの導入は、業務そのものを問い直す良い機会でもあります。しかしそれは、外部から誰かに整理してもらえる話ではありません。 外部コンサル...

企業のAI活用には順序がある——自動化の前に対話型利用が必要な、構造的な理由

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 「AIをもっと活用しなければ」というプレッシャーを、感じていませんか。 セミナーに行けば「エージェントで業務を自動化する時代」という話が飛び交い、SNSを開けば「対話型AIだけでは生産性は上がらない」とか「そもそもChatGPTじゃないよ、Claudeの時代だよ」という投稿まで目に入る。なんとなく、自分たちは乗り遅れているような気がしてくる。 でも少し待ってください。 その「乗り遅れ感」は、本当に正しい現状認識から来ていますか? 「自動化できない」という現実から目を逸らしていないか AIエージェントによる業務自動化は、確かに魅力的な話です。繰り返し作業をAIが代わりにこなし、人は判断に集中できる——理屈はわかります。 ただ、その自動化を実現するにはまず前提条件があります。 何を、どの順序で、どんな条件で処理するべきか が、言葉で定義できていること。 これが、多くの中小企業の現場では、思いのほか難しい。 特定のスタッフが長年の経験から「なんとなくうまくやっている」業務、担当者が変わると途端に回らなくなる工程、「Aさんがいるから大丈夫」という属人的な支えの上に成り立っている仕事——こういった暗黙知の塊を、外部のシステムに渡せる形で定義することは、AIの登場とは無関係に、もともと難しい作業です。 つまり多くの場合、問題は「どのAIを使うか」よりかなり前の段階にある。 自動化を検討・実現する以前に、 自分たちが何をしているかを言葉にできていない という問題です。 そして「エージェントで自動化」の煽りに乗って動き始めた企業組織が最初に当たる壁は、技術的なハードルではなく、この「定義できない」という壁であることが少なくありません。 対話型利用は「準備運動」ではなく「足場かけ」だ では、どうすればいいか。 ここで対話型AI利用の役割が見えてきます。ChatGPTやGeminiに話しかけながら業務をこなす、あの地味な使い方です。「生産性が大して上がらない」と揶揄されることもあるこの段階に、実は重要な機能があります。 暗黙知を、言葉にする過程 AIに「この案件、どう整理すればいいか」と問いかけるとき、人は自分の頭の中にある判断基準を何とかして外に出そうと(言語化しようと)します。 「こんな感じで」「見たらわかるでしょ」はまだ通じない相手だから、背景を説明し、条件を整理し、何...

「とりあえず使ってみる」が組織を危うくする——シャドーAI問題と、本当の解決策

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  ニュースで毎日のように話題になっている生成AI。プライベートも仕事も、AIを活用することが時代の最先端とされています。そこに興味を持ったスタッフは、まず何をするでしょうか。 まずは手元のスマートフォンやプライベートのPCで、ChatGPTを試してみるのではないでしょうか。ChatGPTには、どのブラウザからも簡単にアクセスできるし、スマホアプリも無料で使えます。そもそもアカウント登録しないでも使えてしまう。 一通り触って「AIができること」に慣れてきた後は、「業務のヒントになるかも」と思って、取引先の情報を入力してメールの文案を作ってもらう——。 これは、決して珍しい話ではありません。むしろ今、多くの職場で静かに起きていることです。 「シャドーAI」とは何か 会社が公式に認めていないAIツールを、スタッフが個人の判断で業務に使うこと。これを「シャドーAI」と呼びます。かつて問題になった「シャドーIT」(会社非公認のクラウドサービスや個人デバイスの業務利用)と同じ構造で、生成AIの普及とともに急速に広がっています。 問題は、本人にまったく悪意がないことです。 「便利だから使っている」「業務効率を上げたくて試している」——スタッフの動機はむしろ前向きです。 そして、見えにくい。私物スマホの職場への持ち込みを認めていないという中小企業は、まだ多くないからです。経営者やシステム担当者からは見えないまま、リスクだけが積み上がっていきます。 シャドーAIの何が危ないのか 無料版や個人アカウントの生成AIを業務に使うことには、いくつかの具体的なリスクがあります。 入力した情報がAIの学習に使われる可能性がある 無料版サービスの多くは、利用規約の中で入力データを学習に利用する場合があることを明示しています。(学習利用の回避=オプトアウトを指定できるサービスもありますが、法人向けと同じレベルで取り扱われることまでは期待できません)。取引先の情報、社内の数字、顧客とのメールのやりとり——これらを入力した瞬間に、どう扱われるかのコントロールを失います。 組織外への情報残存リスクがある スタッフが個人アカウントで業務情報を入力し続けた場合、その情報はそのアカウントに紐づいたまま残ります。本人がアカウントの存在自体を忘れてしまうこともあるでしょうし、転職・退職などがあっても組織か...

【研修事例】生成AIを導入したのに、現場で使われない――札幌市内の士業事務所で行った「全員キックオフ」研修

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わたくし高橋大洋は、士業・専門職の事務所や企業向けに、生成AIの「導入後の定着」を支援する研修を行っています。本記事は、実際にお引き受けした研修の一例です。 「ツールは契約したが、スタッフがうまく使えていない」「情報漏えいが心配で踏み込めない」――そんなお悩みのある組織の、ご参考になればと思います。 先日、札幌市内の士業の事務所で、全スタッフ向けのAI研修会の講師を担当させていただきました。 この事務所では、すでに法人契約で生成AIサービスを導入済み。各スタッフは翻訳やメールの下書きなどに使うことを推奨されてはいましたが、実際の使い方は人それぞれ。まだ「見よう見まね」の段階でした。 AIは入れてみた。でも、現場では持て余しているようだ。 ――これは、規模を問わず、いま多くの組織で起きていることだと感じています。CopilotやGemini、ChatGPTを使えるようにしてみたものの、一部のスタッフが我流で触っているだけ。業種的に情報漏えいの事故も困る。そろそろ全員で方向感を共有したい。それが、代表の方からわたくしへのご依頼でした。 そこでこの研修は「全員キックオフ」という位置づけにしました。 「AIはこう使いなさい」「こう使うのは禁止」というルールの 手前 に、まず「AIってどういう仕組みで動いているのか」を伝える。なぜなら、仕組みが分からないまま上から「活用しろ」と言われても進まないのがAIですし、ルールを示されても「なぜマズいのか」が腹落ちしていなければ、人はいずれそこから逸脱するものだからです。 なぜ「使い方」の前に「仕組み」から入るのか 今回の研修でスタッフに伝えたかったことの一つは、AIを「何でもすぐに答えてくれる博識で親切な人」として扱ってはいけない、ということです。 AIの返答はもっともらしい。しかも爆速です。何ページもある資料を与えても数秒で読み終え、それなりに内容も把握できている様子。応答の口調はいつも丁寧で、否定もしてこない。だから「なるほど、そうなのか」とそのまま受け取ってしまいがちです。 研修会の冒頭、代表の方が挨拶でこんな話をしてくださいました。 自分が社会人になりたての頃、手書きの文書をワープロで打ち直すと、なんとなく「ちゃんとした文書」に見えた。内容は同じなのに、整って見えるだけで「まあ大丈夫だろう」と誤字脱字を見逃してしまう。上司のチ...

『はじめてのSNS社会の歩き方』補足記事の第1弾をnoteに公開しました

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  WSJによるトランプ大統領のTruth Social投稿の大規模分析を題材に、『 はじめてのSNS社会の歩き方 』第5章「私企業による公共空間の支配」の議論を補足しています。 Pew Research Centerの最新調査データや、生成AIによる「ゴーストライティング」の問題にも触れています。 講義や読書会でのディスカッション・ポイントつきです。 張り切って書いた結果、長文となりまして恐縮ですが、ご笑覧いただけますと幸いです。 「調査報道が可視化した「SNSの本質」――Truth Socialの8,800投稿分析が示すもの」 https://note.com/taiyotakahashi/n/nc47cd0585a30

『はじめてのSNS社会の歩き方』発売日決定しました

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  『学生のためのSNS活用の技術』初版発行から苦節8年半…と言ったら大げさすぎますが、SNS自体がどんどん変わっていくのに、書籍の内容は2018年(改訂二版)のまま。 講義の際の指定教科書とさせていただいていた小樽商大の学生のみなさまにも、申し訳ない気持ちでいっぱいだったわけです。 でも、その講義資料(こちらは毎年改訂)をベースに、書き下ろした新刊が出ます。 note記事 でその経緯をざっくりご紹介。 また新しい試みとして、本サイト内にも 書籍サポートページ を追加しました。最新の情報で適宜更新してまいります。 SNSに懐疑的な方も、日頃から楽しんでおられる方も、ぜひ本書をお手にとっていただければ幸いに存じます。