こども家庭庁のオンライン座談会動画から発言箇所を文字起こし


前回の記事に続き、同じくこども家庭庁の令和6年度の取り組みから、オンライン座談会での発言部分(4テーマのうち、3つ目と4つ目について)を文字起こししたものです。

座談会の司会進行は玉田和恵先生(江戸川大学・教育工学)でした。


実際に保護者啓発をなさっている中で、どのようなことに悩まれているのか、また保護者啓発による成果がなかなか見られない現状があるようにも思われますが、その原因はどこにあるとお感じになっているか、お聞かせいただけませんでしょうか。

今ご紹介いただいた通り、保護者向けの研修や講演にこれまで多数関わってまいりました。私自身も、高校生と中学生の子どもが1人ずついる保護者として、当事者でもあります。そうした視点からお話ししたいと思います。

保護者は状況を把握している

まず確認しておきたいのは、実際には多くの保護者が、インターネットの利活用が求められる時代であることを理解しています。
リスクについても、テレビやネットニュースなどで日常的に目にする機会が多く、例えば「闇バイト」のような新しいキーワードに対しては、新鮮な怖さを感じておられる方も少なくないと思います。

PTAなどが主催する保護者向け研修会では、外部講師が事件や事故の具体例を挙げて「怖さ」を伝え、その後に「家庭でルールを作りましょう」「フィルタリングを使いましょう」といった制限的対応を勧める——これがよくあるパターンです。

保護者が直面しているのは具体的な行動の難しさ

保護者としては頭では納得せざるを得ません。しかし、実際に家に帰って、目の前の子どもに対して制限的な介入を試みようとすると、うまくいかないことが多いのが現実です。

中には、苦しさを抱えながらも、制限的な行動を貫く「気真面目」な保護者もいます。
子どもが小さいうちはそれでもなんとか対応できますが、小学校高学年くらいになると、親子で正面衝突し、次第に続かなくなってしまいます。

一方、いわゆる「普通の保護者」はお手上げ状態になりがちです。
子どもは言うことを聞かない。でも、喧嘩ばかりしたいわけではない。
一度買ってあげたスマホやゲーム機を取り上げることもできず、心配を抱えながら「運を天に任せる」ような状態になる方が、とても多いのではないでしょうか。

ごく一部には、スマホやアプリに詳しく、制限設定なども苦にならず、子どもと同じゲームを一緒に遊べるような保護者もいます。
でも、そういった「恵まれた」「選ばれた」人たちだけが、子どものネット利用に上手に関わったり、困ったときに助け舟を出せたりしているという構図は、偏っていると思います。

小学校高学年以降になると、子どものほうが大人よりネットに詳しくなるので、より難しくなります。
ただ、小学校低学年くらいまでの時期であれば、大人のほうがまだ知識や経験で優位に立てます。

保護者の本音

そこで、ネット利用に関する保護者の困りごとについて、グループインタビューを行ったことがあります。

そのとき皆さんが口を揃えておっしゃっていたのは、「何をどのくらい見せていいか」「今後どうなるかの見通しが立たない」「子どもへの伝え方が難しい」といったことでした。

例えば、「夢中になったらエンドレスになるから、つい『ご飯だからやめなさい』と言ってしまう」「公園でゲームしている子どもを見て、ああなったらどうしようと不安になる」
「友達が知っていることを、うちの子だけ知らないのではという焦りがある」など、さまざまな本音が聞かれました。

こうした保護者の本音に対して、ただ「家庭でルールを作りましょう」「フィルタリングを使いましょう」と言っても、悩みや不安は解消されません。

青少年インターネット環境整備法には、「フィルタリングの普及啓発により有害情報の閲覧機会を最小化する」という文言があります。
国や自治体の施策も、どうしてもその法令や条例を出発点にせざるを得ません。

教育啓発の中身や方法には改善の余地

しかし、インターネットの利活用とリスクのあいだでバランスを取ろうとする中で、保護者が感じている困難や理想とのギャップは、フィルタリングの啓発だけでは埋まらないのではないかと感じています。

私自身、民間企業や地方自治体とともに、保護者向けの教育啓発に取り組んできましたが、残念ながらその成果は芳しくありません。
量の問題(活動量の不足)もありますが、それ以上に、教育啓発の「中身」や「方法」自体に改善の余地があったのではないかと反省しています。

保護者の不安や素朴な疑問に正面から応じること。
そして、自己責任を押し付けるのではなく、具体的な助け方を示すこと。
そうした支援のあり方が、これからはもっと求められていると感じています。


ここまでのお話を踏まえますと、子どもたちがインターネットを適切に利活用できるようになるためには、どうしても保護者や周囲の大人の支援が必要になるということでした。
実際に保護者自身が子どもを支援できるようになるために、社会全体として今後どのような取り組みが必要だとお考えでしょうか。ご意見を伺えればと思います。

 多くの保護者は、スマホなどインターネットを子どもに使わせる、あるいは与えるタイミングで、「利活用を目指す」という方向性を受け入れています。

一方で、リスクも一定程度あるということは、大まかには承知しています。

現実的なバランスや見通しが示されていない

つまり、多くの保護者が悩んでいるのは、「利活用」と「リスク」のあいだで、どうバランスを取るべきかという点です。
また、18歳で大人としてネットに参加することが「本格的な利活用のスタート地点」だとすると、それまでの道のりが不明瞭で、誰も示してくれず、身近なお手本もない。こうした点に不安を感じているのだと思います。

子どもがネットを使う時期には、子どもの発達や行動範囲の広がりに応じて、ネットの利用範囲も少しずつ広げる必要があります。
しかし、多くの保護者は、自分の子どもが「今どの段階にいるのか」「その先にどんな見通しがあるのか」を知らないままです。

先ほど佐川先生から紹介された「段階的利用モデル」のような基本的な考え方が、もっと広く知られるべきだと考えます。

とはいえ、全ての家庭が理想的なパターンに当てはまるわけではありません。
それぞれの家庭の現実と、理想とのギャップをどう少しずつ縮めていくかが、今の大きな課題です。

保護者が知るべきネットの問題やその捉え方、どう行動すればよいかといった具体的な情報を、できるだけ分かりやすく示していくことが必要です。

私たちSIAでは、「ネット利用は原因ではなく結果である。つまり、何か外側に原因があってネット利用に至っているケースも多い」という考え方を共有しています。

また、「子どものネット利用の本当の課題とは何か」「利活用に向けて経験を積む機会があるか」についても、家庭の中でどう捉えるかが重要です。

大切なのは「おしまいの練習」

家庭でルールを作るという話もありますが、ルールをたくさん作っても、守ること自体が難しいのが現実です。
だからこそ、「心身の健康や発達を守ること」を目的に、絞り込んでルールを作った方が、うまくいくのではないかと考えています。

特に、未就学児から小学校低学年くらいまでの子どもにとって、ネットは楽しい「娯楽」です。
だから「終わりにする」ことは嫌なのです。
けれども、それができないままだと、今後も困る場面が続くことになります。
ですから「おしまいの練習」をすることが、この時期に非常に重要なのだ、というキーワードを保護者に伝えています。

インターネットは、非常に「学びにくいメディア」です。
スマホやパソコンの前では基本的に一人きりで使うため、周囲の様子を見て「真似する」「学ぶ」といったことがやりにくい。
ですから、集合研修で新しい知識を得ても、それだけでは足りません。

また、「インターネットは自己責任の世界だ」と声高に言われることもありますが、実際にはそうではありません。
責任のある利用は当然としても、あまりに広くて変化の早い世界に対して、「自分一人の力でなんとかしよう」とするのは、現実的ではないからです。

自分ひとりでなんとかしなくてよい

セキュリティの専門家も「この分野は人によって詳しい部分が違う。だから“誰に聞けるか”のネットワークを持っていることが大事だ」と言っています。
私たち一般の利用者も、同じだと思います。

つまり、誰もがそれぞれの強みや得意分野を持っていて、それを持ち寄って補い合うことが必要なのです。
特に、子どもを支えるためには、家庭内でも保護者同士、また保護者と子どもが「目の前の課題」を共有し、助け合える関係をどう築くかが重要です。

保護者への働きかけについて、これまで「学校に任せすぎていた」側面もあります。
伊藤先生からも示されたように、学校に過度な期待を寄せるのではなく、保護者とつながる別のルートを社会全体で用意すべきです。

学校に任せすぎない

例えば、すでに保護者向けの接点を持っている支援者——インターネット事業者や地域の警察署など——が、学校の外部講師として関わる場面があります。
こうした方々の取り組みを、ニーズに合った形に見直していく必要があります。

また、ネット利用の低年齢化が進む今、学校以前の段階、つまり未就学期からの支援も必要です。
教育部門だけでなく、健康や福祉を担う自治体職員の方々も、保護者支援の担い手となるべきだと考えています。

実際、SIAが関わってきた秋田県では、学校教員だけでなく、家庭教育支援チームのメンバーが、低年齢児のネット利用や保護者支援について学ぶ機会を得ています。
今ではそれが当然のこととなっています。

他の地域でも、市民ボランティアが教育啓発の担い手となっている事例があります。
こうした地域の動きを、社会全体で後押しすることが求められています。

私たちSIAでは、2024年6月にネットセーフティ教育プログラムをリニューアルし、「ネットセーフティ・ベーシック」という認定資格を新設しました。
オンラインで学習が完結し、一部の自治体では職員研修に活用され始めています。

視聴者の皆様の中に、関係者の方がいらっしゃれば、ぜひSIAのウェブサイトをご覧いただければと思います。

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