こども家庭庁ウェブサイト講演動画の内容を文字起こししてみました

こども家庭庁が例年「青少年の非行・被害防止全国強調月間」を展開し、この数年は「青少年の非行・被害防止対策リモート講演会・座談会」をウェブサイトに掲載していることについては、 以前にこの記事でご紹介した通りです。
令和6年度分について、不肖わたくしめもオンライン登壇させていただきました。
こちら、年度も替わり、そろそろ動画公開期間も終わる頃合いかなということで、全文の文字起こしを行ってみましたので、以下に掲載いたします。
本日時点では、元ネタの動画は以下URLにあります。
https://www.cfa.go.jp/policies/youth-kankyou/hikouhigai-gekkan/cfa-r6
https://www.youtube.com/watch?v=U_SZ4F7rkEo
イントロダクション
皆さんこんにちは。一般社団法人セーファーインターネット協会事務局の高橋大洋です。
私からは、「利活用に向けて子どものインターネット利用を保護者が支えられるようになるために必要なこと」についてお話しします。
子どものインターネット利用が話題になると、さまざまな方が「保護者が子どものネット利用を支えるべき」と理想論を語ります。
しかし、実際にそれをうまくできている家庭は多くありません。なぜでしょうか。
保護者の学びの機会の見直しを
私は、保護者の学びの機会を見直す必要があると考えています。
多くの保護者は子どもを大切に思っています。早くからネットを使わせる保護者は批判されがちですが、これからの時代、ネット利用が重要なスキルになると感じているからこそ与えているのかもしれません。
にもかかわらず、トラブル予防の取り組みがなかなか進まないのはなぜでしょうか。
「技術的な設定は自分には無理」「子どもが言うことを聞かないので諦めた」などという本音もよく聞かれます。
これまでの保護者向け教育や啓発では、「ネット利用の危険性を知らせること」や「フィルタリングを使うこと」といった呼びかけには熱心でした。
しかし、家庭での具体的な取り組み方、保護者が本当に必要としている情報はあまり示されてこなかったのではないでしょうか。
今やネット活用は子どもだけでなく保護者にも求められています。
インターネットは日常生活のコストダウンやスピードアップに役立ちますし、偽情報に惑わされない力を育てることは、民主主義社会にとっても大切な取り組みです。
保護者がきちんと子どもに働きかけているかどうか以前に、「保護者ができる働きかけを具体的にすること」が必要です。
やはり、保護者の学びの機会の見直しが求められていると考えます。
所属組織の紹介
ここで、SIA(セーファーインターネット協会)について簡単に紹介します。
SIAはインターネットの悪用を防ぎ、自由なインターネット環境を守るため、2013年に設立されました。
現在の活動は5つあり、そのうち4つは、法律だけでは解決が難しい問題への取り組みです。
民間企業による自主的な対応が期待されており、SIAの活動は成果を上げ始めています。
私が担当しているのは「教育啓発」です。
インターネットが社会基盤となったことで、安全な活用のための基礎知識が、すべての利用者に求められるようになりました。
SIAのネットセーフティ教育プログラムは、専門家会議や研究会の成果を実践するために始まりました。2019年度からは、個人や支援者向けに学びの機会を提供しています。
全国どこからでも、自分のペースで学べるオンラインコースを開催し、修了者にはレベル別の認定資格を付与しています。
また、支援者や講師向けには、関心に応じてさらに学べるスキルアップ研修会も提供しています。
自治体の中には、職員研修の一環として当プログラムを活用しているところもあります。
子どものネット利用における保護者の本当の役割
さて、冒頭で「保護者への期待は大きい」と述べましたが、そもそも保護者の役割とは何でしょうか。
「ルールを決めて守らせる」「フィルタリングをかける」といった制限的な介入が強調されがちですが、それだけで十分でしょうか。
最近では、子どもたちは学校の授業中でもネットを使うようになり、学校でも注意点を学ぶ機会があります。
しかし、実際には小学校入学前からネット利用が始まる家庭が多く、利用時間も学校より家庭の方がはるかに長いのが現実です。
つまり、学校で学んだことを実践し、身につけていく場所として家庭が重要だということです。
また、子どもには個性があり、発達段階も異なります。
ゲーム機やスマートフォンをいつから使わせるか、新しいサービスに触れても大丈夫かなど、個々の子どもに応じた判断が必要です。
ネットとの適切な距離の取り方を一緒に考えることも必要です。
ネット利用には必ず失敗があります。
大切なのは、そこからの回復や学びです。
それを子どもに丸投げせず、大人が関わることが成功の鍵になります。
自転車の練習やスポーツと同じで、子どもだけではうまくいきません。
保護者が直面している困難
ところが、保護者自身はインターネットの利活用について教育を受けてきませんでした。
自己流で覚えた方も多いでしょうし、以前の学校教育では、携帯の使用を禁止する指導が主流でした。
また、保護者同士でネット利用について学び合う機会もほとんどありません。
子どものネット利用を支えるには、複雑な知識とスキルが求められます。
年齢に応じた使い方、ルール、リスクなど、周辺知識を含めて理解しておく必要があります。
たとえば、乳幼児に動画をどのくらい見せてよいか、小学生は何時までゲームをしてよいか、SNSの利用規約なども知っておく必要があります。
子どもは新しい技術をすぐに覚え、大人より先に使いこなすこともあります。
それでも、少し後ろからでも子どもについていく姿勢が大切です。
思春期になると、保護者の言うことを素直に聞かなくなります。
ですから、スマホを持たせるタイミング以前からの積み重ねが重要で、保護者の学びも早いほどよいのです。
つまり、子どものインターネット利用トラブルを減らし、健全な活用を支えるためには、保護者の学び機会を見直すことが不可欠です。
これまでの保護者向け啓発は、保護者の現実や期待に十分応えるものではありませんでした。
保護者の学びの内容の見直し
学びの内容も見直すべきです。
大切なのは、保護者が「自分にもできそう」と思えるような具体的な取り組みです。
ポイントの一つ目は「具体的であること」。
子どもが毎晩遅くまで動画を見て睡眠不足になっている、というような現実の課題をどう解決するか。
子ども自身がネットと睡眠のバランスを自分で見つけられるようになるきっかけの作り方を知りたいのです。
ポイントの二つ目は「実現可能であること」。
たとえばスマホのタイマー機能を使っても、子どもがその制限を回避してしまうかもしれません。
家庭のルーター設定などは、難易度が高く、忙しい保護者には負担です。
こうした点から、学びの内容と機会の両方の見直しが求められます。
また、学びの提供を学校だけに任せるのではなく、家庭教育支援チームや自治体、地域ボランティアが関わることも重要です。
実際にそうした地域もあります。
また、「いつも同じ保護者しか参加しない」という声もありますが、大切なのは、参加者に本当に役立つ内容を提供できるかどうかです。
大人は経験や状況に応じて、自分でも学びを深めていける存在です。
うまく課題が解決できれば、それは参加していない保護者にも伝わる可能性があります。
「こうあるべき」と知識を押し付けるよりも、「解決できた」という事実のほうが影響力があります。
SIAのプログラムでは、こうした大人の学びについての支援や指導のあり方も伝えています。
ご興味のある方は、ぜひSIAのウェブサイトをご覧ください。
私からのお話は以上です。ご視聴ありがとうございました。