AI研修を外注する前に決めておくべきこと——「情報セキュリティ研修」と「人材開発」は、目的が違う
「社員を対象としたAI研修を検討しているのですが」というご相談をいただくとき、最初にお聞きすることがあります。
その研修で、何を実現したいですか?
この問いに対する答えによって、依頼すべき相手も、研修の形も、まったく変わってきます。
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AI研修には、二種類ある
AI研修と一口に言っても、目的によって大きく二つに分かれます。
一つは「均質化型」。全員が最低限のことを理解し、情報漏えいやセキュリティ事故を起こさないようにする。AIに関するルールや注意事項を周知する。これは情報セキュリティ研修の延長線上にある取り組みです。
もう一つは「エンパワメント型」。一人ひとりのスタッフが、自分の仕事にAIを取り入れながら、これまでよりも自分らしく力を発揮できるようにする。これは人材開発の話です。
どちらが正しいということではありません。ただ、目的が違えば、必要な研修はまったく異なります。
それなのに、この二つを混同したまま研修を発注しようとしているケースが少なくありません。
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「均質化」が目的なら、eラーニングで十分かもしれない
情報セキュリティの底上げ、AIに関する社内ルールの周知、基本的なリスクの理解——これらが目的であれば、集合研修である必要はないかもしれません。
eラーニングには明確な利点があります。全員が同じ内容を、自分のペースで、記録を残しながら受講できる。コストも抑えられる。「全員が受講済みである」という事実を管理しやすい。
均質化が目的であれば、eラーニングは合理的な選択肢です。
ただし、eラーニングで実現できることには限界があります。
知識は入っても、行動は変わりにくいのです。
確認テストで「生成AIを業務で使う際は機微な情報を入力しない」と正答を選べることと、日常業務の中でその判断を適切に実践することは、別の話です。eラーニングは前者には向いていますが、後者を育てる力は弱い。
また、自分たちの業務への翻訳が起きにくい。一般論として「こういうリスクがある」と理解しても、「では自分のこの仕事ではどうすればいいか」という問いに答えてくれる仕組みが、eラーニングにはありません。疑問は疑問のまま残ります。
セキュリティの底上げはeラーニングで、その先の人材開発は別の手段で——という使い分けが、現実的な判断です。
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「エンパワメント」が目的なら、話はまったく違う
一人ひとりのスタッフがAIを自分の武器にしていく、という目的に対して、eラーニングでは根本的に足りません。
理由は、これまで繰り返し書いてきたことと同じです。
与えられた答えをなぞるだけでは、自分の業務には使えない。プロンプトは自分たちの現状認識からしか生まれない。業務フローを問い直す過程なしに、AIは定着しない。そして中小企業においては、一人ひとりの凸凹がそのまま組織の個性であり強みです。それを均質化する方向の研修は、むしろ逆効果になりかねない。
エンパワメント型の研修に必要なのは、対話です。
自分たちの業務を持ち込んで、その場で試して、うまくいかない理由を一緒に考える。「自分の場合はどうすればいいか」という問いに、その場で向き合える環境。知識を伝えるのではなく、考え方と試行錯誤の仕方を一緒に育てていく時間。
これは、eラーニングにも、プロンプト集の配布にも、代替できません。
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AI研修は「情報セキュリティ」の範疇で終わらない
もう一つ、発注の前に整理しておいてほしい視点があります。
AI研修を「情報セキュリティ研修の一環」として位置づけている組織は多い。確かに、AIに関するセキュリティリスクへの対応は必要です。それは守りの話として、きちんとやるべきです。
ただ、守りだけでは足りない時代になっています。
AIをどう使いこなすかは、個々のスタッフの生産性に直結し、組織全体の競争力に影響します。これは人材開発の話であり、組織文化の話でもあります。「AIを安全に使わせる」から「AIで一人ひとりが力を発揮する」へ——この転換を意識した研修設計が、これからの中小企業には必要です。
情報セキュリティの担当部署が窓口になって発注する研修と、人材開発・人事の観点から設計する研修では、求めるものが根本から違います。どちらの文脈で取り組むのかを、発注前に社内で合意しておくことが重要です。
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発注先を選ぶ前に、この問いに答えてください
研修会社やコンサルタントを比較検討する前に、まず社内でこの問いに向き合ってください。
私たちは、スタッフに何ができるようになってほしいのか。
最低限のルールを守れるようになってほしいのか。それとも、一人ひとりがAIを自分の武器として使いこなせるようになってほしいのか。
前者が目的であれば、発注先の選択肢は広い。eラーニングも含めて、コストと利便性で選べばいい。
後者が目的であれば、選ぶべき相手は変わります。業務の現場を知っていて、対話型の研修を設計できて、「プロンプト集を配って終わり」ではない関わりができる相手かどうか。そこを確認してください。
私が支援できるのは、後者を目指す組織です。
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この記事を書いた人
高橋大洋/株式会社ミヤノモリ・ラボラトリー代表。企業・団体向けのAIリテラシー研修を提供しています。情報セキュリティの観点だけでなく、人材開発・組織開発の視点からAI活用を支援することを得意としています。研修のご相談はこちらからどうぞ。
