「すぐ使えるプロンプト」を持ってきても定着しない理由——中小企業のAI活用に外部からの答えはない

 SNSの広告や、セミナーの告知でよく見かけます。


「すぐ使える厳選プロンプトを特別公開!」「業務効率が劇的に上がるプロンプト集」——。


気持ちはわかります。何から始めればいいかわからない、うまく使いこなせていない、そんな状況で「すぐ使える」という言葉は魅力的に映ります。


でも少し立ち止まって考えてみてください。


そのプロンプト、本当に「自分たちの仕事」に使えるでしょうか?


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なぜ定着しないのか①:よそと同じ業務は一つもない


外から持ってきたプロンプトが定着しない理由の一つは、シンプルです。


それは、あなたの組織の業務のために書かれていないから。


「議事録を要約して」「メールの返信文を作って」——汎用的な使い方なら、どこのプロンプトでもそれなりに機能します。でも実際の業務は、もっと文脈が濃い。

そしてこちらが与えた文脈次第で、全く異なる答えが生成されるのがいまのAIの仕組みです。


取引先との関係性、組織として求められる言葉の遣い方、「原則はそうだけど、こういう場面ではこう判断する」という暗黙のルール。こういった背景を反映させずに書かれたプロンプトをそのまま使っても、当然のようにズレが生じます。


「使ってみたけどなんか違う」「結局自分で直す方が早い」——それは、AIのせいではなく、プロンプトの作られ方のせいかもしれません。



なぜ定着しないのか②:業務フローに手を入れていない


もう一層、深いところにも問題があります。


プロンプトは、「何をAIに頼むか」が明確になっていないと書けません。そしてその明確さは、業務の流れを自分たちがきちんと把握していることを前提にしています。


ところが多くの現場では、業務フロー自体が「今までそうしてきた」という慣習で動いています。誰かが長年やってきたやり方、担当者が変わると途端に回らなくなる工程、明文化されたことのないチェックの基準——。


こういった状況でAIを導入しようとすると、プロンプトを書く以前の問題にぶつかります。「AIに何をどう頼めばいいか」がわからない、という問題です。


業務フローを所与の絶対条件として動かさないまま、プロンプトだけを外から調達しようとしても、うまくいかないのは当然です。AIの導入は、業務そのものを問い直す良い機会でもあります。しかしそれは、外部から誰かに整理してもらえる話ではありません。



外部コンサルは「まるごと整理」してくれるのか


AI導入支援のコンサルティングを活用して、部門ごと業務を整理し、大幅な効率化を実現する——そういった「成功」事例が紹介されることがあります。


それ自体は嘘ではありません。ただ、そうした取り組みが成立するのは、業務の標準化が進んでいる業種の、ある程度の規模を持つ組織が多い。数十人、数百人のスタッフが同じ工程を繰り返している業務なら、外部の目で整理することも可能でしょう。


しかし中小企業の現場では、多くの場合、その前提が成り立ちません。


一人ひとりのスタッフが複数の役割を担い、属人的な判断と工夫で仕事が回っている。その複雑さは、外部の人間による短期間の観察やヒアリングで把握できる性質のものではありません。


中小企業の現場業務を言語化できるのは、外部の誰かではなく、自分たちだけです。そしてその言語化の過程でしか、自分たちの仕事に本当にフィットするプロンプトは生まれません。



試行錯誤の過程こそが、自社の資産になる


「AIに何を頼めばいいか」を考えながら業務を見直し、プロンプトを試して、うまくいかなくて、また試す。


この過程は地味で、時間がかかります。「すぐ使えるプロンプト」の手軽さとは対極にあります。


でも、その試行錯誤の過程で育ったプロンプトは、言語化された自分たちの業務そのものです。取引先との関係、判断の基準、仕事の進め方——それらが込められたプロンプトは、よそからは持ってこられません。


逆に言えば、汎用的なプロンプトをそのまま使い続けるということは、誰でも同じ道具を同じように使うことを意味します。それは規模の大きな組織が圧倒的に有利な競争軸です。中小企業の強みは、そこにはありません。


自分たちにしか書けないプロンプトを育てていくこと。その積み重ねが、AI活用における中小企業の本当の競争力になると考えています。




この記事を書いた人

高橋大洋/株式会社ミヤノモリ・ラボラトリー代表。企業・団体向けのAIリテラシー研修を提供しています。「プロンプト集の配布」ではなく、組織がAIと付き合う力を育てることを重視した研修設計が専門です。研修のご相談はこちらからどうぞ。

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