生成AIの熱狂の隣で──判定AIが教えてくれること

 「AI」と聞いた時、まず何を思い浮かべるでしょうか。

2026年の現在、ChatGPTのような対話型のサービスを思い浮かべる方が多いはずです。チャット画面に質問を打ち込めば、文章でも要約でも翻訳でも返してくれる、いわゆる「生成AI」ですね。

でも実際には、クルマの自動ブレーキ(画像認識処理)にも、スマートフォンの顔認証にも、AIが組み込まれています。私たちは、対話型のAIに毎日触れるより前から、こうした「別の種類のAI」に囲まれて暮らしてきました。

考えてみると、この数年で生成AI自体の呼び方そのものもずいぶん変わりました。

2022年末に登場したころは「生成系AI」と呼ばれていたものが、いまでは単に「AI」と呼ばれることも珍しくありません。

これは生成AIが社会に普及した証です。けれど同時に、それ以前からわたしたちの社会で実用化されていたAIが、言葉の上では見えなくなっていくということでもあります。

興味深いのは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が、この流れには安易に乗っていないことです。

IPAは2024年の調査(AI利用時のセキュリティ脅威・リスク調査報告書)の時点でも、今年6月に公表された最新の調査でも、AIを「生成AI」と「判定(分類)AI」の二つに分けて扱い続けています。つまり、生成AIブーム以前からある「従来のAI」を、視界から外していない。


数字が映す、生成AI一色ではない現実

IPAによる最新の「AIの動作・分析・利用等の説明に関する意識調査」は、企業で実際にAIを業務利用している2000人を対象にしたものです。

この調査で、判定(分類)AIを「利用している」と答えた人は、業種を問わず、全体の63%にのぼります。生成AIの95%には及ばないものの、決して脇役の数字ではありません。

たとえば製造の現場では、異常検知や故障予測、品質判定といった形で、判定AIが当たり前のように動いています。生成AIだけがAIではないということです。

Photo by ThisisEngineering on Unsplash

報道やSNSの熱量は、ほぼすべて生成AIに向かっているように見えます。あらゆる業種で生成AIの活用方法の試行錯誤が続く一方で、製造現場ではずいぶん前から判定AIが定着し、淡々と使われ続けている。この落差そのものが、まず押さえておきたい事実です。


判定AIとは何か ── その素朴さと説明しにくさ

生成AI(大規模言語モデル)では、次に来る言葉を一つ選び、その結果を積み上げながら次を選ぶ、という作業を何度も何度も高速で繰り返しながら、出力結果(文章)を組み立てています。

判定AIの仕組みは、生成AIと比べるとむしろ素直です。

判定AIには生成AIのように毎回異なる文章を生成する性質はありません。

たとえば画像を見て「正常か、異常か」、入力データを見て「分類Aか、Bか」。一つの判定を返して終わりです。しかも同じ入力なら通常は同じ判定を返してくる。


では判定AI導入の本当の価値はどこにあるのでしょうか。

よく単純に「人手を減らせるから」と説明されますが、本丸はそこではありません。判定AIの本当の強みは、人間には見えない組み合わせを捉えられる(そしてそれを休まずに続けられる)ことにあります。

従来のやり方は、熟練者が「この値を超えたら異常」と、“しきい値”(境界線)を決めて見張るものでした。稼働中の生産設備の温度だけ、振動だけなら、人間にも線が引けます。AIを使わずともセンサーと機器・プログラム(アルゴリズム)の組み合わせで判定できる可能性がある。

ところが「温度がやや高め、かつ振動が特定のパターン、かつ圧力の上がり方がこう」という、三つ四つの条件の組み合わせで初めて意味を持つ異常を、人間が同時にかつ的確に追い続けることも、プログラムに落とし込むことも難しい。

判定AIは、たとえば異常検知のような用途であれば、過去のデータから「正常な状態のパターン」を学習し、そこからの微細なズレを捉えます。しかも人間が手で引けるような単純な線ではなく、何本もの軸が絡んだ複雑な境界線を引けるわけです。

ただし、この強みには同時に説明しにくさがついてまわります。判定が複雑で人間に追えないからこそ存在価値があるのに、まさにその同じ理由で、複雑な判断をさせればさせるほど「なぜそう判定したのか」が人間には見えにくくなってしまいます。(その対処についてはまた別の機会にご紹介したいと思っています)。


判定AIは、業務を知る人間なしには立ち上がらない

ここからが、本稿でいちばん伝えたいところです。

判定AIには、生成AIにはない決定的な性質があります。現場ごとに、中身を作り上げなければならないということです。

ある工場の設備にとっての「正常」は、別の工場の同じような設備であっても、そのままでは通用しません。

製品の材質や形状、捉えたい不良の種類によって、何をセンサーで測るか ── 振動なのか、音なのか、温度、圧力、流量、電流値なのか ── が変わります。外観検査でも、対象が変われば最適な学習のさせ方も、必要なデータも変わります。

つまり判定AIは、「何を学習させ、何を異常とみなすか」を、その業務を知っている人間が決めて(介入して)初めて立ち上がるものです。ここが生成AIの導入との根本的な違いです。

生成AIは、汎用の賢さを外から持ち込めます。世界中のテキストで訓練されたモデルが、あなたの会社の事情を知らないまま、それなりの答えを返してくれる。だからこそ手軽で、だからこそ広まりました。(もちろんそれだけで自社の業務本体には使えるわけではなく、一工夫が必要なのですが…)。

判定AIは、そうはいきません。その価値は、現場の業務理解と不可分にしか生まれない。

汎用の土台を使うにせよ、最後は自社のデータ、自社の「正常」、自社の「許せない不良」を教え込む工程が要る。

そしてそれを教えられるのは、外部のベンダーでも、AIに詳しいだけの人でもなく、その業務の全体像を理解し、細かな変化を毎日のように見ている人間だけだからです。


この点は、多くの導入事例で繰り返し指摘されているところです。

特によく語られるのは、「AIという言葉の目新しさだけに惹かれて、現場の課題や運用体制を考えずに経営側・管理者側が導入を指示してしまう」ケースです。

現場担当者が納得しないままなので、肝心のデータ収集もチューニングも進まず、形だけの導入で終わってしまう。そこに「人減らしのためのAI導入」という管理者側の思惑が隠れていたりするとなおさら事態は悪化します。

一方で経営側・管理者側は「いつまで調整に時間がかかっているんだ」と苛立つ。判定AIが、ツールを買えば動くものではなく、人の理解と納得の上にしか立たないということを、この失敗はよく表しています。

繰り返しになりますが、判定AIの導入においては、業務を理解したスタッフこそが主役です。これは「人を大切に」といったモラルとか心構えの話ではありません。判定AIという技術の性質から、論理的にそうなる、というわけです。


求められているのは、操作スキルではなく判断力

IPAの調査結果にも興味深い数字が挙げられています。

「AI利用のために参照したい情報」の答えとして一貫して一位だったのは、個々の操作テクニックでも、最新ツールの使い方でもなく、「AIの基本知識(AIにできること、利用場面など)」でした。約8割の人が、これを参照したい(問8)と答えています。

興味深いのは、「初心者だから基礎を求めている」のではなく、AIに詳しい人ほどこの基本知識を重視する傾向(問9)が見られたことです。

現場が本当に求めているのは、構造を理解したうえで判断できる力なのです。この出力は信じていいのか、この判定をどこまで採用するか、どこで人間が止めるべきか ── そうした判断は、判定AIソフトや生産設備の操作マニュアルからは得られません。

技術を入れただけでは、組織は変わらない。人の判断力がそれに追いつき、技術の裏表まで把握して、はじめて投資が成果になります。IPAの調査結果は、それを裏づけているように見えます。


生成AIの熱狂の隣で

今回ご紹介した判定(分類)AIと比べると、対話型の生成AIは、誰にでもとても触りやすい技術です。誰でも、すぐに、自分の言葉で使える。その手軽さ自体を否定する必要はありません。

けれど、生成AIの熱狂の隣で、静かに動き続ける判定AIこそが、生産と利益を着実に支えている。そして、そこに欠かせないのは、自社の業務を理解したスタッフだという事実が、生成AIを業務に活用し、組織の生産性を高めるための大切なヒントにもなると考えています。

つまり、判定AIの世界で昔から当たり前だった「現場を知る人が主役」という原則は、生成AIの活用を考えるときにも変わりません。自分たちの仕事を理解している人が生成AIの仕組みを理解すること、そして言語化の技能を高めることが必要なのです。


この記事を書いた人


高橋大洋/株式会社ミヤノモリ・ラボラトリー代表。企業・団体向けのAIリテラシー研修を提供しています。ツールやモデルの選定そのものではなく、その手前にある「自分たちの業務の言語化」と「AIとの分担の設計」を支援することが専門です。研修のご相談はこちらからどうぞ。(ミヤノモリ・ラボラトリーのウェブサイトが開きます)

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